inayamafumitaka’s official diary

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プロジェクトマネジメント・インタビュー iYell株式会社 千歳様

interview企画に至るまで ー企画の前説的なものー
システム開発手法のウォーターフォールアジャイルスクラムでこれが世界共通の標準というテンプレートがあるわけではありません。システム開発手法はもちろん、プロジェクトをマネジメントするPMBOKもマネジメントからのモニタリングとしての考え方であり、知識エリアの実務での実施要領はプロジェクトや組織で構築しなければなりません。
 
エンジニアが経験できるシステム開発手法やプロジェクトマネジメントは、メンバとして参画したプロジェクトのプロジェクトマネージャやスクラムマスターの経験に基づくものです。これは、
 
「エンジニアは参画したプロジェクトで採用されているシステム開発手法やプロジェクトマネジメントの管理方法しか経験することができない」
 
ということの裏返しです。そういった考え方に立つと、他社のシステム開発手法やプロジェクトマネジメントはどのように運用されているのだろうと興味を覚えたのでした。
 
だったら、実際にあって聞いてみたらいいのではとツイッターで呟いていたところ、この企画に最初に興味を持っていただいたのがiYell株式会社の執行役員兼すみかる編集長の千歳紘史さんでした。

 

このインタビューは、様々な会社のでプロジェクトマネジメントを会話を介して体験する企画です。それではiYell株式会社の千歳様のインタビューを始めましょう。

profile ー千歳様とiYell社についてー
千歳 紘史さん iYell株式会社(いえーる)
 執行役員 "いえーる すみかる編集長 https://iyell.co.jp/member/kchitose/
 経歴 受託開発や自社サービスでのプロジェクト経験を積んだ後、独立してプロジェクトマネジメントを支援する株式会社理想ラボを設立。2016年11月にiYell株式会社と事業統合し、執行役員”いえーる すみかる編集長に就任。
 住宅ローンや不動産会社選びの情報サイト http://sumikaru.iyell.jp/
 個人ブログ  http://media.coach4pm.com

interview
インタビューの約束の日は、天気予報どおりに昼下がりを過ぎたあと1時間もないタイミングに雷鳴と驟雨が道玄坂の風景を変えた、そんな5月の午後にiYell社のオフォスで行われました。
自己紹介のあと、限られたタイムボックスの中でインタビューを行います。千歳さんに森實さん筆者でインタビュアーを、3人の会話を高柳さんがファシリテーショングラフィックでまとめていきます。
会話形式で表記します。発言者の表記は次のとおりです。
 ち:千歳さん も:森實 い:筆者
 
■千歳さんのキャリア、iYellでの役割、進行中のプロジェクトについて
い「千歳さんご自身のプロジェクトマネージャの経歴を教えてください」
ち「キャリアパスとしてよくあるエンジニアからマネジメントになったのではなく、マーケティングからシステム開発のプロジェクトマネージャになりました」
い「iYellでの役職を教えてください」
ち「Web系のプロダクトを統括しています。システム開発のエンジニアが9名(SES2名含む)、編集が6名、セールスが2名の計17のチームです
い「編集のメンバの具体的にどのような業務をされているのですか」
ち「システム開発以外のすべての業務を行うチームを<編集>と呼んでいます。ユーザーインターフェイスの検討やコンテンツ制作、マーケティングKPIのコントロールなどを担当しています。ただ、開発、編集、セールスの線引きは厳密なものではなく、全員がすべての領域をカバーできることを目指しています。
い「開発部門で現在進行しているプロジェクトはどのようなものですか」
ち「現在*1の主なシステム開発プロジェクトは、今秋リリース予定の、不動産取引に特化したスマートフォン向けAIチャットアプリ開発にほぼ全エンジニアを投入しています」
*1 2017年5月1日取材時点。

■開発部門のマネジメントについて
い「開発部門の組織構造はどのような構成になっていますか」
ち「千歳-技術責任者-エンジニアメンバ3階層になっています」
い「CTOの配下のエンジニアはフラットですか。それともリーダを配置していますか」
ち「フラットです。今の人数であれば生コードを把握できる規模なので」

システム開発手法について
い「主なプロジェクトのスマホアプリ開発だと、システム開発手法はアジャイル開発のスクラムを採用されていますか」
ち「緩いウォーターフォールを採用しています。基本的な機能開発を終えてファーストリリースした後はアジャイル開発のように短期間で開発を繰り返すと思います」
い「短期間で機能開発を繰り返すシステム開発手法はアジャイル開発よりは、短いウォーターフォールの繰り返す追加開発のイメージに近いですね」
ち「そのイメージが近いです」
い「WBS、タスク管理には何かツールを使用していますか」
ち「タスク管理にはRedmineを使って、チケットで管理しています」

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ガントチャートは使用しない
い「Redmineなどのチケット管理システムだとチケットが一覧のビューで表示されます。スケジュールはプラグインなどを入れてガントチャートで共有されていますか」
ち「ガントチャートは使っていません。ガントチャートは、工数や期間や依存関係が曖昧に表現されすぎるので、現実と乖離してしまうことが多いと思っているからです
い「タスクの見積もり工数が数時間でもガントチャートで表現すると1日になってしまう、ということですね。ガントチャートの線で作業プロセスの何を含めるのかと決め事も必要になります」
ち「そうです。それにガントチャートタスク毎の線を描くと未着手なのにできた気分になってしまうのも精神的によくないと思っています。
い「人は子どものときから日曜日から土曜日のカレンダーや夏休みのスケジュールなどで日付を単位としたスケジュール管理に慣れています。そういった慣れについてはどのように時間軸を共有していますか」
ち「マイルストンはガント風の線表にして共有しています。タスクレベルではチケットのみです」

ウォーターフォールの開発手法を採用する理由について
い「スマホアプリ開発ではウォーターフォール開発手法を採用されていますが、アジャイル開発のスクラムやカンバンを採用されなかった理由がありますか。あちらには透明ボードにポストイットで作業管理をされているようですが

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ち「あれは管理部門の物理カンバンですね。物理カンバンは確かにわかりやすいのですが、開発プロジェクトでは物理で可視化するにはタスク数が多すぎる気がしますまた、前職でアジャイルで開発をした経験あるのですが、期待する結果を得られなかったということもあり、現在はウォーターフォール開発手法を採用しています。アジャイル開発は今ステークホルダーとの利害調整もやりにくいと感じます。

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■エンドユーザとの関係について
い「受諾開発と内製システム開発ではエンドユーザとの関係で変わったことがありませんか」
ち「受託では契約に従って線を引くことができました。いわゆる炎上プロジェクトですら、あくまで契約上の範疇で仕切りやすいという側面があります
い「現在は自社プロダクトになったので契約で切ることができなくなった。でも、リリースを伸ばすか、リリースする機能を減らす他に選択肢はないと思います」
ち「自社プロダクトは、ビジネスオーナーが顧客となるので線引きがしにくく、すぐにスコープクリープを起こしてしまいがちです。その意味では今の方がプレッシャーがあるのかもしれません

■チーム運営について
い「チーム運営で大切にしていることがあれば教えてください」
ち「プロジェクトチームである前に友人でありたいと思っています。他愛ない話ができる関係であれば問題の火種は雑談の中で早期に解決できますが、ビジネスライクな関係では問題が表面化しないと解決できません。最近の風潮だとブラック企業と言われかねないですが、他社と比べて飲み会やイベントも多いです、友達ですからね。休日も一緒に遊べるくらいのチームの関係を作ることで、馴れ合いではない強い絆が生まれます。チーム同士対立軸を作らないようにすることも気を遣っています
「気軽に雑談できることは大切ですね。相談になってしまうとすでに問題になっていることが多いです。対策案も一緒に持っていかないといけない場合もあります」
ち「相談の前にいかに雑談レベルで予兆を掴めるかが運営の鍵だと思います。その点でも風通しは良いと思っています」
い「コミュニケーションはどのように促進していますか」
ち「チームのコミュニケーションツールchatworkを使っています。隣同士でも、会話せずにチャットでやりとりしていることも多いです
「同じ開発室にいて近い距離にいるのにチャットワークを使う理由は」
作業とコミュニケーションを平行して進められることが最大のメリットだと思います。会話の場合はどうしても数分手が止まってしまいますが、簡単な確認なら、chatworkであれば集中を切らさずに一言返答することができます。実装中にエンジニアに声をかけるのは気を遣いますからね笑
「相談したいときに、今、相手に話し掛けて良いか悩まなくていいということですね。
ち「はい、メンバーを限ったチャットルームを作れば機密的な話もしやすいですし。

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■チームマネジメントについて
ち「チームのゴールはかなりストレッチした目標を設定しています。その方が事業もメンバ自身も成長するので」
い「社内の他部門とはゴールをどのように調整していますか」
ち「目標には外から見える部分と見えない部分があるので、見える部分のみで調整しています。その見える部分が、プロジェクトマネージャとして最低限クリアするラインということです。見えない部分がストレッチの部分で、専門職としてのスキルが問われるところですが、その部分は玄人だから見える差なので、仮に未達だったとしても対外的な利害調整では問題ないようになっています
い「具体的にはどのような差なのでしょうか」
ち「わかりやすい例でいうと如何にリーダブルでメンテナンスしやすいコードを書くかなどです

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■エンジニアと次世代プロジェクトマネージャの育成について
い「プロジェクトマネージャになりたいと意思表示しているメンバはいますか」
ち「います」
い「プロジェクトマネージャやラインマネージャはあまり人気のない職種と言われているので嬉しいです。現在フラットなチーム構成の場合、どのように育成していきますか」
ち「小さなプロジェクトから任せて経験を積んでもらいたいです。特に若い人には、仕事のプロジェクトではなくても、例えばイベントなどでも良いのでマネジメントの立場で最初から最後まで経験することがスタートだと思っています
い「開発部門の人数からプロジェクトマネージャの経験を積む場合プレイングマネージャになると思いますがプロジェクトマネージャとして持っていてほしい資質にはどのようなものがあるでしょうか」
ち「プレイングマネージャになりますね。プロジェクトマネージャとして持っていてほしい資質には、最低限タスクの洗い出しと依存関係の把握は完璧にできてほしいです
い「作業の見積もりも出来て欲しいですね」
ち「作業見積もりは一人で出来て欲しいです。時間との兼ね合いもあるので、全てをというわけにも行かないと思いますが。分担するにしてもそれを判断しなければならないので」
も「これが見えているとマネジメント出来ていると思えるものはありますか」
ち「人に対してどうコミュニケーションを取るか。メンバが気持ちよく仕事できるようにするか、で、しょうか。あとは、最終的には自分が全部責任を持つという覚悟がプロジェクトマネージャには必要ですね

■プロジェクトマネジメントを別の言葉で表すとしたら
も「最後に、敢えてプロジェクトマネジメントを別の言葉で表現するとしたらどのような言葉が当てはまりますか」
ち「表向きには、時間とスコープとコストです。本心は、プロジェクトに関わる人達のモチベーションがプロジェクトマネジメントだと思います。誰と何を話してゴールまで向かうか。それがプロジェクトマネジメントだと思っています」

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インタビューが終わって

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右から、千歳さん、森實さん、筆者、高柳さん
 
ち「改めてプロジェクトマネジメントについて考える良い機会になりました。とても楽しかったです。どんなに小さな組織やプロジェクトでも、それをマネジメントするには知識と経験が必要だと思います。普段はどうしても経験に頼りがちになりますが、今日話しながら改めてプロジェクトマネジメントついて考えてみて、知識と最近の経験とが融合して私自身が一段階レベルアップできた気がします笑」
ち「ちなみに、iYellではエンジニアや編集・ディレクターなどを絶賛大募集中です。小規模な開発チームで働くことや、不動産領域のプロダクトに興味のある方がいればお気軽にご連絡ください」
 
高柳さん「楽しく描かせてもらいました!千歳さんのお話を聴きながら、これはしっかりとプロジェクトマネジメントを学んだことがある方だなと思いながら描きました。知識と実践のバランスによってたどり着いた考えという感じがして、説得力ある話だったなと思いました
 
森實さん「面白い企画に巻き込んでもらえてとても嬉しかったです。ワンチームの開発チームとそれを含む会社という単位の組織について、現場感がたっぷりとあるインタビューでした(すぐ後ろに開発チームや管理部門の方々がいらっしゃいました)。また、千歳さんのおっしゃるプロジェクトマネジメントは『誰と何を話してゴールまで向かうか』という、人をキーにしたマネジメントスタイルに共感を覚えるとともに、素敵な会社だなと感じました
 
い「千歳さんとはツイッターで予めお話しする方向性についてはお伝えてしていましたが、事前に想定していたより多くのテーマについてお伺いすることができたことはプロジェクトマネジメントという共通の知識があったからかもしれません。会話の中で千歳さんが選ぶ言葉、振る舞い、そして表情などからプロジェクトマネジメントや組織のマネジメントの考え方を裏付ける信念を感じることができました。特に印象が残っていることは、メンバの情報を拾い上げる場作りです。エンジニアにより、情報の捉え方、伝え方は様々ですから、場を作ることで収集する機会を増し、拾い上げ続けることを重要視されていることに共感しました」
 

ファシリテーショングラフィック
高柳 謙@DiscoveryCoach
企業向け研修コンサルタントファシリテーター。主に企業外の活動でファシリテーターとしての活動を行っていたが、2012年からファシリテーションを用いたチーム(プロジェクト単位での)研修を企業内で実施。研修を現場の課題の解決と実験の場として扱い、研修で失敗して現場に活かすプログラムに組み上げていった。 2015年に5月に独立し、現在は企業研修の内製化のコンサルタントととして研修策定・作成研修ファシリテーターまでを行ってい。またファシリテーターの育成や、チームビルディングとしての対話の場づくりを提供している。
講演:アジャイルジャパン2017、ComebackJapan2017
 
インタビュアー
森實 繁樹@samuraiRed
認定スクラムプロフェッショナル(CSP)、認定スクラムマスター(CSM)、認定スクラムプロダクトオーナー(CSPO) 
講演:XP祭り2016、プロダクトオーナー祭り2016アジャイルジャパン2017、DevOpsDays Tokyo 2017、ComebackJapan2017
活動:日本XPユーザグループ(XPJUG)スタッフ、侍塊sの侍れっどとしてXP祭りLT司会や各種楽曲制作(「Dear XP」など)
 
企画・インタビュアー
稲山文孝@inayamafumitaka
Project Management Professional(PMI)2003~ 
講演:XP祭り2015、XP祭り2016 、アジャイルジャパン2017、ComebackJapan2017
著書:「アプリ開発チームのためのプロジェクトマネジメント(マイナビ)」「カワイイ後輩の育て方」「ガルパン仕事術」(プロジェクトマネジメント同人誌)など